ひき逃げの刑罰は?交通事故を起こしたらやるべき4つの対処法

本日(令和2年10月29日)、俳優の伊藤健太郎さん(以下、伊藤さんといいます)が、ひき逃げの罪で逮捕されたというニュースが流れました。このニュースを聞いて驚いた方も多いと思います。

そこで、今回は、ひき逃げがどんな罪でどんな刑罰を科されるのか交通事故を起こした場合にどんなことをやるべき、といったことについて元検察官が詳しく解説します。

 

ひき逃げって何?

実は、「ひき逃げの罪」という罪は存在しないことはご存知でしょうか?

ひき逃げと聞くと、単に、交通事故現場から逃げた、というイメージを持たれる方も多いと思いますが、実は、逃げることだけがひき逃げではありません

つまり、ひき逃げには、

 

①交通事故現場で直ちに停止しなかったこと(停止義務違反)

②負傷者に対する必要・十分な救護をしなかったこと(救護義務違反)

③道路における危険を防止するなどの必要な措置を行ったこと(危険防止措置義務違反)

④警察官に交通事故の内容を報告しなかったこと(事故報告義務違反)

 

の4つの意味が含まれています。

 

①から④の内容は、以下の道路交通法72条1項をご覧いただければお分かりいただけると思います。

 

(交通事故の場合の措置)

第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない

 

つまり、

①→「直ちに車両等の運転を停止して」

②→「負傷者を救護し」

③→「道路における危険を防止する等必要な措置」

④→「この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。」

にそれぞれ当たることがお分かりいただけるかと思います。

 

ひき逃げの対象となる人は?

ひき逃げの対象となる人、つまり、前記の①から④の義務を負う人は、主に

 

  • 車の運転者
  • バイクの運転者
  • 原付バイクの運転者
  • 自転車の運転者
  • 車の同乗者

 

などです。

 

先の道路交通法72条1項は「当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員」と規定しています。

当該交通事故に係る「車両等」には、車のほかバイク、原付バイク、自転車(軽車両)も含まれます

また、運転者のみならず「その他の乗務員」、つまり、車の同乗者なども含まれます

 

なお、車のひき逃げの場合で、運転者が同乗者に被害者の救護等を任せきりで、交通事故現場から立ち去ることが許されないことは当然のことです。

 

ひき逃げの刑罰は?

ひき逃げの刑罰は車、バイク、原付バイクでひき逃げした場合と自転車でひき逃げした場合とで異なります。

車、バイク、原付バイクでひき逃げした場合

①、②、③の違反については、「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金(道路交通法117条1項)」OR「10年以下の懲役又は100万円以下の罰金(道路交通法117条2項)」です。なお、人身事故の場合の多くは、後者の罰則が適用されます

④の違反については「3年以下の懲役又は5万円以下の罰金(道路交通法119条1項10号)」です。

自転車でひき逃げした場合

①、②、③の違反については「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金(道路交通法117条の5第1号)」です。④の違反については「3年以下の懲役又は5万円以下の罰金(道路交通法119条1項10号)」です。

 

交通事故を起こしたら、まず何をすべき?

まず、車等を「直ちに」停止させることです(①)

この「直ちに」という点がミソです。つまり、「何かにあたったな」という認識がありながら交通事故現場を立ち去り、数百メートル進んだところで「やっぱり様子を見てこよう」と思って交通事故現場に引き返した場合は「直ちに」には当たらずひき逃げの罪に問われる可能性があります。

 

車等を停止させたら、今度は、負傷者を救護します(②)

救護と一言でいっても、交通事故後の状況や被害者の怪我の程度によってやるべきことは異なります。

110番通報すること、近くに病院がある場合は負傷者を病院まで運ぶことはもちろんのこと、そのまま被害者を道路に放置していれば二次被害を受ける可能性がある場合は、被害者を道路外に運ぶことも救護(あるいは、次の「道路における危険を防止する等必要な措置」)といえます。

なお、「軽傷だから救護の必要はない」などと勝手に自己判断してその場から立ち去ることは絶対にやめましょう

そもそも、怪我の程度は交通事故を起こした方ではなく医師が診察を経た上で判断するものです。

たとえ予想通り、軽傷だったとしてもひき逃げの罪に問われる可能性は高いです。

 

負傷者の救護とともに、道路における危険を防止する等の必要な措置も講じます(③)

どんな措置を取るべきかは、交通事故後の道路状況などによって異なります。

なお、「道路における危険を防止するための必要は措置」とはあくまで例示で、「必要な措置」には道路外における危険を防止する措置も含まれます。

道路における危険を防止するための必要は措置としては、車の後方に三角板を立てて他の車の交通整理をすること、車を放置することが危険な場合に車の安全な場所へ移動させることなどを挙げることができます。

また、道路外における危険を防止するための措置としては、人家に突入させた車等を屋外に出すことなどを挙げることができます。

 

以上のことを行った上で、最後に、警察官、任意保険会社に交通事故の内容を報告します(④)

警察官に対しては、多くの場合、まず110番通報することとなるでしょう。

警察官に報告する内容は道路交通法72条1項後段に規定されているとおり、

・当該交通事故が発生した日時及び場所

・当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度

・損壊した物及びその損壊の程度

・当該交通事故に係る車両等の積載物

・当該交通事故について講じた措置

とされていますが、これらすべてを報告できなくてもかまいません。

そもそも、事故報告義務の趣旨は、警察官に交通事故の事実を知らせ、交通事故現場において必要な措置を取らせることを可能することにあるのですから、報告する内容はそのことが可能となる程度の内容でよいのです。

なお、110番通報して交通事故を起こしたことを報告したものの、警察官が交通事故現場に到着する前に交通事故現場から立ち去った場合は、報告義務を完全に履行したとは認められない可能性があります

また、保険会社への報告を怠ると保険が使えなくなるおそれがありますので、必ず、電話して報告しましょう

 

ひき逃げしただけでは罪は成立しない?

ひき逃げの罪が成立するには①から④の事実に加えて、車両等の運転者が、交通事故が発生したことを認識していた、といえることが必要です。

このようにある事実(ひき逃げの場合、交通事故)について認識が必要とされる犯罪のことを故意犯といいます。殺人罪(刑法199条)、窃盗罪(刑法235条)なども故意犯です。

 

もっとも、認識が必要といっても人身事故か物損事故か、負傷者は何人で、怪我の程度はどの程度か、などという事細かな認識までは不要です。そこまでの認識を必要とすると、ひき逃げの罪が成立する範囲があまりにも狭くなってしまいます。

ひき逃げの認識は、人を轢いたかもしれない、何かにぶつかった、踏んだかもしれない、などという未必的な認識でよいと解されています(最高裁昭和40年10月27日)。

 

ひき逃げの認識があったかどうかは、交通事故現場の状況、交通事故発生時の衝撃、音響、叫声の有無、車両等の損壊の程度、交通事故の態様などから個別に判断されます

 

なお、先日、10月26日、福岡地方裁判所で、ひき逃げなどの罪に問われた女性につき、「交通事故当時、女性に人を轢いた認識があったとは認めがたい」などとして、無罪判決が言い渡されています(執筆当時、未確定)。

 

伊藤さんの今後は?

報道によると

・車を運転中、車をバイクに衝突させて転倒させ、バイクの運転者及びその同乗者に怪我をさせた

・運転者は両腕打撲の軽傷、同乗者は左足を骨折する重傷を負った(加療期間は不明)

・その場から百数十メートルほど立ち去った

・衝突の際、大きな音がした

・後方の車2台に追跡され、約3分後に、交通事故現場に戻ってきた

・伊藤さんが事実を認めている

とのことです。

伊藤さんは車を運転中にバイクの運転者を転倒させ怪我をさせた件で過失運転致傷罪に、ひき逃げした件で道路交通法違反に問われています。

現場から立ち去ったことで①から④の違反が成立することは明らかですし、以上の事実関係からすると、交通事故を起こした認識があったといえそうです

 

過失運転致傷罪は「7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」、ひき逃げの罪は最長で「10年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(ひき逃げの罪の方が重たい!)と決して軽くはありません。しかし、この種事案の事件は、警察の証拠収集が速やかに行われますし、伊藤さん本人も罪を認めているということですから、早期に釈放される可能性も大いにあり得ると考えます。

なお、過失運転致傷罪について興味のある方は以下の記事もご参照ください。

参考:交通事故で問われる罪(過失運転致死傷罪)に【池袋死亡事故】について解説

次に、刑事処分についてですが、被害者が2名いること、同乗者が左足を骨折する重傷を負っていることからすると、伊藤さんが任意保険に加入しており被害者と示談を成立させ、被害者からのお許し(宥恕)をもらえても略式起訴され罰金50万円程度の略式命令を受ける可能性があります。また、示談が成立しない場合は、正式起訴され懲役1年から1年6月の執行猶予付の判決を言い渡される可能性が高いです(実刑は考えられません)。なお、ひき逃げの場合、起訴猶予による不起訴はあり得ません

 

伊藤さんの所属事務所は、「伊藤健太郎の今後の活動につきましては、捜査の推移を踏まえた上で、皆様にご報告させていただければと思います」とコメントしています。確かに、ひき逃げしたこと自体は悪いことですし、被害者の怪我の程度によっては厳罰もと考えたいところです。しかし、私個人としては、23歳という未来ある若者に更生のチャンスを与えていただければなと思います

 

まとめ

ひき逃げは①から④の違反のことをいいます。罰則は最長で10年以下の懲役又は100万円以下の罰金と、交通事故の罪で多い過失運転致傷罪よりも重たいです。ひき逃げすると一気に人生を失ってしまう可能性もあります。交通事故を起こした場合は勇気を振り絞って、まずは現場に留まることを第一優先としましょう。

 

 

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA