交通違反で赤切符を切られた後の流れについて元検察官が解説

交通違反では青切符のほかに赤切符を切られることがあります。
では、どんな交通違反で赤切符を切られ、切られた後はどのような流れで進んでいくのでしょうか?
本記事ではその点の疑問に、元検察官の私がずばりお答えします。
交通違反の赤切符とは?
交通違反の赤切符とは、正式には、「告知票・免許証保管証」といいます。
「告知票・免許証保管証」は「道路交通法等違反事件迅速処理のための共用書式の様式等及びその運用要領等の制定(以下、通達といいます)」という警察の通達に規定された書式で、通達では「薄桃色」とされていますが、赤色っぽくみえることから通称として赤切符と呼ばれています。
参考:「告知書・免許証保管証」の書式 引用元:通達
赤切符を切られる交通違反は?
赤切符を切られる主な交通違反と罰則、違反点数は次のとおりです。
【赤切符を切られる主な交通違反と罰則、違反点数】
交通違反 | 罰則 | 点数(※3) |
速度超過(一般道、30キロ超過) | 6月以下の懲役又は10万円以下の罰金 | 6点(※1) |
速度超過(高速道、40キロ超過) | ||
無免許運転 | 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 | 25点 |
酒酔い運転 | 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金 | 35点 |
酒気帯び運転 | 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 | 25点(※2) |
無資格運転 | 6月以下の懲役又は10万円以下の罰金 | 12点 |
仮免許運転違反 | 6月以下の懲役又は10万円以下の罰金 | 12点 |
歩行者の信号無視 | 3月以下の懲役又は5万円以下の罰金 | なし |
歩行者の通行禁止違反 | 2万円以下の罰金又は科料 | なし |
※1 50キロ以上の超過は12点
※2 アルコール数値が0.25以上の場合は25点、0.15以上0.25未満の場合は13点
※3 違反点数と行政処分(免許停止など)との関係は「こちら(警視庁 行政処分基準点数)」をご覧ください。
なお、赤切符を切られる交通違反のことを「非反則行為」といい、青切符を切られる交通違反のことを「反則行為」といいますが、非反則行為と反則行為を同時に行った場合も赤切符を切られます。
たとえば、無免許運転(非反則行為)と同時に赤色信号無視(反則行為)を行った場合は赤切符を切られ、同時に処理されます(無免許運転のみの場合よりも罰則は重たくなります)。
他方で、非反則行為を行っても、赤切符を切られず一般の刑事事件と同様に処理される場合もあります。もともと、赤切符は「略式起訴→略式裁判→罰金」という流れを想定した書式であるため、懲役が見込まれる場合は赤切符を切られません。また、通達では逮捕事案の場合は赤切符を切らないとしています。
【非反則行為でも赤切符を切られない場合(通常処理される場合)】
- 懲役が見込まれる場合(前科・前歴が多数、執行猶予中など)
- 逮捕された場合 など
交通違反で赤切符を切られた後の流れ
交通違反で赤切符を切られた後の流れは以下のとおりです。
【交通事故で赤切符を切られた後の流れ】
① 交通違反(非反則行為)発覚、検挙
↓
② 取調べ、実況見分、アルコール検査などを経た上で、赤切符の交付を受ける
↓
③ 送致(送検)
↓
④ 検察官の取調べ
↓
⑤ 略式起訴→略式裁判→略式命令(罰金●●円)発付
↓
⑥ 略式命令謄本送達
↓
⑦ 正式裁判申立て期間(14日)
↓
⑧ 略式裁判確定
↓
⑨ 前科がつく
警察官に交通違反(非反則行為)が発覚すると、その場で呼び止められ、検挙です(①)。
警察官から、交通違反の現場で交通違反事実を告知され、事実に間違いがないかどうか問われます。
事実を認める場合は、簡単に事情を聴かれ、「供述書」という欄に署名・押印を求められます(任意)。その後、供述書に署名・押印すると、赤切符の交付を受けます。
事実を認めない場合は、事細かに事情を聴かれます。その後、取調べ、実況見分などが行われ、取調べが終わった後は、供述調書に署名・押印を求められ(任意)、赤切符の交付を受けます(②)。
検挙から1ヶ月程度で、事件が赤切符の書類とともに検察庁へ送致されます(③)。
送致後は、担当の検察官から電話か手紙で呼出しを受け、取調べで、交通違反事実に間違いがないかどうか事情を聴かれます。事実を認める場合は5分くらいで取調べが終わり、略式起訴、略式裁判(※)、略式命令に関する説明を受け、略式裁判を受けることへの同意を求められます(④)。
※略式裁判
裁判官の書面審理のみで終わる裁判。
「100万円以下の罰金又は科料」の範囲で略式命令が出ます。
略式裁判を受けることに同意すると(同意することの書面にサインすると)、略式起訴され、略式裁判を経て、「罰金●●万円」という略式命令が発布されます(⑤)。その後、略式命令謄本(赤色の紙)がご自宅に郵送されてきます(⑥)。
参考:「略式命令謄本」の書式 引用元:通達
なお、赤切符を切られたときは、「三者即日処理」の方法で略式命令を受けることがあります。
三者即日処理とは、裁判官、検察官、警察官(3者)が簡易裁判所に集まって、事情聴取(取調べ)・送致(③)から略式命令謄本の送達(⑥)までを一日で終わらせてしまう手続きのことです。また、同時に罰金もその場で納付することができます。
違反者にとっては「いつ検察官から呼出しを受けるのか?」、「罰金はいくらか?」などという不安から早期に解放される点でメリットといえます。
警察官から「●月●日に●●裁判所に来てください」と言われたら、この三者即日処理の手続きを受けるのだと思ってください。
略式命令謄本の送達を受けた後は、送達を受けた日の翌日から起算して14日間が正式裁判申立て期間です(⑦)。略式命令に不服がある、やっぱり正式な裁判で自分の主張を裁判官に聞いてもらいたい、などという方は、この期間内に命令を出した裁判所宛に書面で正式裁判を申立てます。
申立てをせず14日を経過すると略式裁判を確定し、前科がつきます(⑨)。
罰金を納付するタイミング、納付方法
罰金は刑罰の一種ですから、裁判が確定した後、つまり上記の流れでいうと⑧の後に納付するのが基本です。
しかし、罰金については、裁判が確定する前(つまり、⑥以降の段階)から納付を求められることが通常です。
三者即日処理では、略式命令謄本を受けた後(⑥の後)、検察庁の職員から「罰金を納付しますか?」と聴かれます。ここで納付できる方は、その場で納付してもよいです(あらかじめ警察官からおおよその罰金額を教えてもらえます)。
納付できない、納付したくないという方は、検察庁の職員から納付書(納付告知書)(期限は14日)を渡されますので、後日、納付書とお金をもって金融機関へ行って納付するか、検察庁の徴収係の窓口で納付しましょう。
なお、この14日以内に納付できなくてもかまいません。この14日は、裁判が確定する前の「仮」の納付期間だからです。
仮の納付期間内に納付できなければ、今度は、略式裁判が確定した後(⑧の後)にご自宅に「督促状」(期限は14日)が送付されてきますから、督促状とお金をもって金融機関へ行って納付するか、検察庁の徴収係の窓口で直接納付しましょう。
略式裁判確定後は、正式な刑の執行期間ですから、仮納付期間の場合と異なり、罰金を納付しなければ強制的に刑務所に収容される「労役場留置」の措置を取られることもあります。やむを得ず罰金を納付することができない場合は、検察庁の徴収係に電話して納付期限を延長してもらうなどの措置を取ってもらいましょう(原則、分割納付は不可)。
三者即日処理以外での罰金の納付方法についても、処理手続きで罰金を納付する方法以外は同じです。
交通違反の赤切符と青切符の違い
最後に赤切符と青切符の違いについて解説します。
赤切符については「交通違反の赤切符とは」で解説したとおりです。
他方で、青切符とは、正確には「交通反則告知書」のことをいいます。
「交通反則告知書」は道路交通施行規則40条に基づく書式で、記載事項は道路交通法施行令46条に規定されています。告知書が青色であることから、通称「青切符」と呼ばれています。
前述のとおり、赤切符を切られると、刑事手続に沿って手続きを進められ、ゆくゆくは罰金の刑罰を受け、前科がつく可能性があります。
他方で、青切符を切られた場合は刑事手続ではなく、交通反則通告制度という制度に沿って手続きが進められ、罰金でなく反則金を科されます。前科はつきません。もっとも、反則金を納付しなかった場合は刑事手続に移行する可能性もありますので注意が必要です。
罰金と反則金の違い、反則金の納付しなかった場合どうなるかについては以下の記事でも解説していますのでご参照ください。
参考:反則金と罰金の違いとは?検挙から納付までの流れについて元検察官が解説
参考:反則金の納付忘れで逮捕される?逮捕されやすいケースを元検察官が解説
【交通違反の赤切符と青切符の違い】
赤切符 | 青切符 | |
正式名称 | 告知書・免許証保管証 | 交通反則告知書 |
手続き | 刑事手続 | 交通反則通告制度 |
制裁金 | 罰金 | 反則金 |
書式の根拠 | 通達 | 道路交通法施行規則 |
まとめ
交通違反で赤切符を切られるのは、酒酔い、酒気帯び、無免許運転など悪質な違反をした場合です。青切符を切られた場合と異なり、刑事手続に沿って手続きが進み、ゆくゆくは罰金を科せられ、前科がつく可能性があります。